資格を取る

ビルクリーニング技能士とは?合格率と実技の中身を、清掃の現場に3年半いた人間が説明します

Claude

ビルクリーニング技能士は、清掃の作業そのものを試験にした国家検定です。1982年(昭和57年)に検定職種になり、2016年(平成28年)から1級・2級・3級に分かれました。

先に結論を書きます。

  • 現場の作業がそのまま試験になるので、実務をやっている人ほど有利
  • ただし累計合格者は1級が63,129人に対して2級は2,637人。「技能士」といえば事実上1級のこと
  • そして私が3年半いた清掃の現場では、この資格を持っている人は1人もいませんでした

3つめが引っかかると思います。理由は制度側にちゃんとあって、この記事の後半で説明します。

この記事を書いている人

先に立場を分けておきます。どこがどの立場で書かれているかが分からないと、この手の記事は読みようがないからです。

  • 現場にいた人間として:ダスキンで清掃を3年半。一般家庭が中心で、病院・飲食店・漫画喫茶・ホテル・商業施設・工場にも入りました。床のドライ清掃(ポリッシャー、バフがけ、カーペットのポリッシャーがけ)、トイレの定期清掃、カーペットのしみ取りは全部やっています
  • 求人を扱う側として:人材派遣の業界に19年
  • 調べた人間として:制度・日程・合格率は、公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会の公表資料から

そのうえで正直に書いておきます。私はビルクリーニング技能士を持っていません。

だからこの記事に「試験に受かるコツ」は書けません。書けるのは、試験に出る作業を現場で実際どうやっていたかと、この資格が現場と制度の中でどう扱われているかの2つです。

ビルクリーニング技能士とはどんな資格か

職業能力開発促進法にもとづく国家検定「技能検定」の1職種です。都道府県が実施する職種が多いなかで、ビルクリーニングは指定試験機関である公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会が実施しています。

合格すると「ビルクリーニング技能士」を名乗れます。技能士は名称独占で、合格していない人が名乗ることはできません。

「国家資格ですか?」への答え

はい、国家検定です。ただし業務独占ではありません。この資格がなければ清掃の仕事ができない、というものではない。実際、清掃の現場は資格がなくても入れます。

では何のためにあるのか。個人のためというより、会社のためにある側面が強い資格です。これも後半で説明します。

級ごとの受検資格

主な受検資格
1級実務経験5年以上/2級合格後1年以上/3級合格後3年以上 など
2級実務経験2年以上/3級合格者 など
3級ビルクリーニング業務に従事している者、または従事しようとする者(実務経験不問)

3級だけ実務経験が要りません。「従事しようとする者」なので、これから清掃の仕事に就く人でも受けられます。

合格率は公表されている

協会が年度別の申請者数・合格者数を公表しています。直近3年です。

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年度 1級 2級 3級
2025年度37.7%(2,055人中775人)45.6%(649人中296人)61.3%(1,171人中718人)
2024年度36.9%(1,967人中726人)45.2%(690人中312人)59.5%(1,133人中675人)
2023年度38.6%(2,025人中781人)46.5%(682人中317人)60.7%(1,061人中644人)

級が上がるほど合格率が下がる。ここまでは普通です。

この表には、おかしなところがあります

一番難しいはずの1級が、受検者数も一番多い。2,055人です。そして2級が一番少ない。649人しかいません。

普通の資格は、下の級ほど受ける人が多くなります。逆になっている。

累計を見るともっとはっきりします。

累計合格者数
1級63,129人
2級2,637人
3級5,775人

1級だけ桁が違います。

差が出た理由は難易度ではありません

級ができた年が違うからです。

ビルクリーニングが技能検定の職種に加わったのは1982年(昭和57年)で、2016年(平成28年)までは級が分かれていない「単一等級」でした。1級の累計には、その34年分が入っています。2級と3級は2016年からの約10年分しかありません。

つまり、業界で「ビルクリーニング技能士」と言ったときに想定されるのは1級です。2級・3級は、まだ人数が出ていない新しい級ということになります。

実技試験で何をやるのか

級ごとに作業が違います。

実技試験の作業
1級床表面洗浄/繊維系床部分洗浄/壁面洗浄
2級床ドライ清掃/繊維系床しみ取り/トイレ定期清掃
3級床清掃/ガラス面洗浄/トイレ日常清掃

学科は1級・2級が真偽法25問+択一法25問(60分)、3級が真偽法25問(60分)です。学科はCBTで、受検票が届いたあとに会場と日時を自分でWEB予約します。

そして重要なことに、協会は実技試験の問題そのものを公開しています。以下は2級の実技作業試験問題(2024年度)を読んで整理したものです。

課題1:弾性床ドライ清掃作業(スプレーバフ法)

標準12分・打ち切り14分。

塩化ビニル系の床6㎡を、三方を組み立て式の幅木で囲んだ中で作業します。手順は作業準備→除塵→ポリッシャー操作→除塵→拭き上げ→資機材の手入れ→後始末と、あらかじめ決められています。

面白いのは汚れの作り方です。床の汚れはおが屑で代用され、6㎡に15mLだけ均一にまかれています。さらにクレヨンで直径30cmの円が3箇所描かれていて、これがヒールマークなどの黒ずみに相当します。

現場ではポリッシャーもバフがけも日常の作業でした。カーペットのポリッシャーがけも含めて、床まわりは一通りやっています。

課題2:繊維系床しみ取り作業

標準8分・打ち切り10分。

明るい色のナイロン100%タフテッドカーペットを使い、タテ20cm×ヨコ30cmの枠内にある、親水性と疎水性の2つの汚れを取ります。支給されるのはカーペット用洗剤・水・石油系有機溶剤の3つです。

そして手順の2番目が「汚れの識別」です。

つまり試験は、何のしみかを教えてくれません。「親水性のものと疎水性のもの」としか示されない。どちらがどちらかを自分で見分けて、洗剤でいくか溶剤でいくかを決めるところから作業が始まります。

現場でやっていたことが、そのまま試験の採点項目になっています

現場で厄介だったのは、コーヒーと油系のしみです。

この作業でまずやるのは、こすることではありません。何のしみかを判別することです。それによってアルカリ性か酸性か、効く薬剤が変わります。判別を外すと、いくらやっても落ちない。しみに見えて、実はガムだったこともあります。

つまりこの作業の本体は、技術というより選定です。試験がわざわざ手順に「汚れの識別」を入れているのは、そこが分かれ目だからだと思います。

なお失格要件に、大ブラシを回しながら使う「回し取り技法」を行った場合が入っています。カーペットの毛を傷めるやり方が、はっきり禁止されています。

課題3:トイレ定期清掃作業

標準10分・打ち切り12分。

温水洗浄便座付きの洋式大便器の模型を使います。便座は一旦取り外して作業し、便器ボウルの内側と外側を清掃します。

ここが一番、試験と現場が違うところでした。

  • 汚れは墨汁で代用されている
  • 支給される「洗剤」は、水(洗剤容器に入った水500mL)
  • クロスは色で用途が決められている(赤=洗剤拭き、黄=洗剤拭き後の水拭き、白=水拭き、緑=ノズル拭き、青いタオル=床拭き)

墨汁を、水で拭き取る。この時点で、この課題が「汚れを落とす力」を見ていないことがはっきりします。見られているのは手順と、クロスの使い分けと、便座の扱い方です。

現場の定期清掃は、基本は通常のトイレ掃除と同じです。ブラシを使って洗剤で便器を擦り、汚れを落とす。水垢や水シミがあればコンパウンドで磨く。

ただ定期なので、そこまで汚れは蓄積していません。日常使いで溜まった汚れを落とすのがメインになります。

現場ではこの先があります。

  • 尿石が固着していれば尿石除去剤を使いますが、これは劇薬です。使うときも保管も神経を使いました
  • 時間がないとき、削る速度を上げるために耐水ペーパーを使うこともありました。ただしこれは人にすすめられるやり方ではありません。注意してやらないと陶器のコーティングが剥がれます。経験の浅い人は、きちんとコンパウンドで磨いたほうがいい。減らせる時間より、剥がしてしまったときの損害のほうがずっと大きいからです
  • そして仕上がりに差が出るのは最後です。外側やタンクなど、ツヤのある部分をシリコン系のクリーナーで拭くと、はっきりツヤが出ます。「定期清掃が入った」という見た目になるのは、汚れを落とした時点ではなくここでした

このどれも、試験には出てきません。汚れが墨汁で洗剤が水である以上、出しようがない。

失格要件を読むと、この試験が何を見ているのかが分かります

2級の試験問題には失格になる条件が並んでいます。要点はこうです。

  • 打ち切り時間までに作業が終わらない
  • 作業の一部を省略するなど、手順を著しく誤る
  • ポリッシャーにコードを巻き込む
  • ポリッシャーの操作技術が未熟で、コントロールできないと判断される
  • 転倒する、他人にケガをさせる
  • 大便器に資機材を流す
  • 温水洗浄便座のノズルや操作パネルを壊す
  • 指定された以外の資機材を使う、持参品を忘れる

全部、手順と安全です。「仕上がりが甘い」で失格になる項目は、ひとつもありません。

試験は手順と安全性、現場は仕上がりが第一

同じ作業をしていても、見られているものが違います。

試験が見ているのは、決められた手順どおりに、安全に、時間内にやれるか

現場でお客さんが見ているのは、終わったあとにきれいになっているか、それだけです。

だから資格を持っていない人が現場で通用しないわけではないし、資格を持っている人が現場で速いとも限りません。測っているものが最初から違います。

実技には、もうひとつ計算のテストがあります

見落とされがちですが、実技試験は作業試験だけではありません。実技ペーパーテストがCBTで60分あり、電卓を持参します。

内容は、指定された建築物の概要と清掃作業の仕様から、洗浄面積・洗浄時間・必要人員を算出するものです。

手を動かす試験だと思っていると、ここで足をすくわれます。必要人員まで出させるということは、作業する側ではなく作業を組み立てる側の知識を問うているということです。1級がこのあと清掃作業監督者につながることを考えると、筋は通っています。

この資格は現場で評価されるのか

正直に書きます。

3年半のあいだ、私の周りにビルクリーニング技能士を持っている人は1人もいませんでした。

ダスキンには社内資格があって、みんな頑張って取っていましたし、取れば優遇もされました。でも外部の資格を持っている人は、いなかった。

これは「資格に意味がない」という話ではありません

私がいたのが一般家庭中心の現場だったことが大きいと思います。お客さんは資格の有無を見ていません。見ているのは仕上がりです。

この資格が本当に効くのは、個人の手当ではなく、会社が仕事を受けるときです。

会社にとっては、登録の要件そのもの

建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)にもとづいて、清掃を請け負う会社は「建築物清掃業」として都道府県知事の登録を受けることができます。この登録には人的な要件があって、清掃作業監督者を置く必要があります。

そして清掃作業監督者になれるのは、次のどちらかに当てはまり、かつ厚生労働大臣の登録を受けた講習を修了した人だけです。

  • ビルクリーニング職種の技能検定に合格した者(1級または単一等級のみ)
  • 建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士)の免状を持つ者
ここで話がつながります

2級・3級では清掃作業監督者になれません。1級(または単一等級)だけです。

だから1級の受検者が一番多い。個人がステップアップのために受けるというより、会社が登録を維持するために社員に取らせる資格だからです。

そして私がいたのは一般家庭中心の現場で、建築物清掃業の登録が必要な仕事ではありませんでした。誰も持っていなかったのは、当然といえば当然でした。

だから、どこで働くかで価値が変わります

  • ビルや施設の清掃を受託する会社にいる、または行きたい → 1級は会社にとって必要な資格。評価されます
  • 一般家庭中心のハウスクリーニングにいる → 直接は効きません。私の周りに1人もいなかったのがその答えです
  • これから清掃の仕事に就く → 3級は実務経験なしで受けられます。ただし3級で監督者にはなれないので、位置づけは「入口」です

受検の日程と費用

年に1回です。申請期間が2週間しかありません。

内容
受検案内の公開6月下旬
申請受付7月下旬〜8月上旬(2026年度は7月22日〜8月6日)
実技試験11月下旬〜翌年2月上旬
学科(CBT)翌年1月中旬〜2月上旬
合格発表翌年3月31日

受検手数料は2026年6月1日に改定されています。

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実技 学科 合計
1級20,000円5,000円25,000円
2級18,000円4,800円22,800円
3級15,000円4,000円19,000円

申し込みから合格発表まで、9か月かかります。思い立った月に受けられる資格ではないので、受検案内が出る6月下旬にカレンダーを入れておくくらいでちょうどいいと思います。

学科は、同じ級の学科合格者・上位級の学科合格者・関連する職業訓練の修了者などが免除の対象になります。

よくある質問

よくある質問①

独学で受かりますか

学科は独学の範囲だと思います。問題は実技です。

試験会場の資機材は用意されます。受検者が持参するのは作業衣・作業靴・タオル2枚・保護手袋くらいで、ポリッシャーもカートもトイレの模型も会場のものを使います。

問題は練習のほうです。14インチのポリッシャーも、タフテッドカーペットも、温水洗浄便座付きの便器も、自宅にはありません。勤務先の道具を使えるかどうかが、そのまま実技の準備ができるかどうかになります。

協会や各地の団体が受検準備講座を開いているのは、そこが理由だと思っています。

よくある質問②

3級と2級、どちらから受けるべきですか

実務が2年に満たないなら3級しか選べません。2年以上あるなら2級から入れます。

ただし前述のとおり、2級・3級では清掃作業監督者になれません。会社の登録要件として意味を持つのは1級だけです。5年の実務が見えているなら、1級を直接狙うという選択もあります。

よくある質問③

資格を取ると給料は上がりますか

私がいた現場では、この資格で手当がつくという話は聞きませんでした。社内資格には優遇がありましたが、外部の資格を持っている人自体がいませんでした。

一方で、建築物清掃業の登録が必要な会社にとって1級は必須の人材です。「資格に手当がつくか」ではなく「その資格を必要としている会社かどうか」で決まる、というのが実際に近いと思います。

まとめ

  • ビルクリーニング技能士は、清掃作業をそのまま試験にした国家検定。名称独占だが業務独占ではない
  • 合格率は1級37.7%、2級45.6%、3級61.3%(2025年度)
  • 累計合格者は1級63,129人、2級2,637人、3級5,775人。差は難易度ではなく、2級・3級が2016年にできた新しい級だから
  • 清掃作業監督者になれるのは1級(または単一等級)だけ。建築物清掃業の登録要件なので、1級は会社にとって必要な資格
  • 実技はどれも現場の日常作業。ただし試験は手順と安全性、現場は仕上がりが第一で、見られているものが違う
  • 実技には洗浄面積・洗浄時間・必要人員を算出する計算のテストもある(電卓持参)
  • どこで働くかで価値が変わる。一般家庭中心の現場では、私の周りに1人も持っている人がいませんでした

私はまだ持っていません。受検して、そのときにこの記事に受けた側の話を足します。

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